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うつくしい娘 

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短編です。すべての章に共通するテーマは悪意。
そのなかで「うつくしい娘」は、角田光代という作家を知るのに一番適していると思います。
この作品は醜く太ったひきこもりの娘を持つ母親の葛藤が描かれています。
母親が美人というのもポイントです。
とても切なく、とても恐い夢のような物語でした。

彼女の最高傑作は「八日目の蝉」であり、
彼女の出世作は「空中庭園」だと私は思います。
しかし彼女の原点は「うつくしい娘」かもしれません。 

八日目の蝉は盗んだ女の子を我が子として育てる母親の物語。
空中庭園は映画化されたときに
「お母さん、もう死んじゃえば」
という女優の台詞がじつにこの小説のすべてを表現していて鳥肌がたちました。
この2作品には「母と娘」というテーマが根底にある。「うつくしい娘」は短編ですが、彼女がずっと描き続けてきた母と娘の葛藤のすべてが濃縮されています。


うつくしい娘 _e0065456_223539.jpg母娘の関係をずっと気にしてきた私としては、あくまでも一般論ですが、両者の関係は親子関係のなかで一番複雑と考えます。
母親が息子のみを溺愛し、娘を知らずのうちに引き離しているケースも多いらしい。
母と娘は友達のような関係になることも多い。しかし複雑になるケースも多い。







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NHKの「抱きしめるというコミニケーション」という公共広告機構のCM。あれは娘を愛したくても愛せない母親を想定したものになっていると私は考えます。
(昔のCMですが)




親が子を愛するのは当然です。
当然だからこそ、それができない母親は苦しんでいる。
人によってはそんな母親のことを非人間だと思うかもしれません。
母親失格だと非難するかもしれません。


たぶんそういう人は角田光代の小説を読んでも何も感じない。
人の持つ欠陥とそれに伴う心の痛みを描くことが純小説の目的だと私は思います。
直木賞作家の彼女が何度も芥川賞の候補になった理由は、
人の心の奥を描くことができる作家だからです。