「真鶴」 川上弘美
小説というよりも詩のように感じます。
あえて「ひらがな」を多用することで、やわらかで抽象的な文章になっている。
独特の文体なので戸惑う人も多いかもしれません。たとえば
「真鶴はつよかった」
という言葉。真鶴は地名なのですが、こういう抽象的な言葉の使い方が多かった。
作者は読者の感性に訴えかけているのでしょう。
真鶴は小田原と湯河原の間の半島だそうです。
主人公はその場所に執拗にこだわりを持っているのですが実際に彼女が本当にそこに行ったのかそれとも空想なのかはわからない。ぜんぶ女性の頭の中のイメージなのかもしれません。
それからこの作品には幽霊が登場します・・いや幽霊というよりも主人公の分身というべきの抽象的な存在です。「自問自答」という言葉がありますが、作者は主人公を自問自答させるために、分身を登場させたのだと思います。「自分自身との対話」という手法は「カラマーゾフの兄弟」「ジャンヌダルク」「うなぎ」などにもありました。なぜか私はこの手のスタイルの物語に縁があるみたいです。どれも自分の無意識の領域を少しづつ明らかにしていく手段としてそれは用いられていました。
基本的にこの作品は真鶴の美しい描写を楽しむためのものではなく、人間の深層心理を突き詰めていく物語だと思います。
(美しい!真鶴です)