「命」 柳美里
芥川賞作家の柳美里の小説は、不幸自慢だと評価されることがあります。
ていうか、芥川賞じたいが、不幸自慢大会なのだと言いたい(苦笑)
さて、このキングオブ不幸フェチ作家が、渾身の力を振り絞って描いた「命」は、
凄まじい負のパワーに満ち溢れた本です。
死んでいく命と、生まれてくる命が、
異様な迫力を帯びて描かれている。
まさに実話ならではの迫力。
内容は、作者が、妻子ある男と不倫をして、その男の子供を産もうとするまでの話です。
この人は、自分の罪や欠陥を、すべてさらけ出して小説を書いてきたと思う。
そういう自分のマイナス面を、肯定もせず、否定もせず、悲観的にならず、自虐的にもならず、ただひたすら淡々とあるがままに描いてきた。
「命」では、柳氏の愛人が末期がんにかかって壮絶な闘病生活が始まる。
作者いわく、血の滲むような思いで描いた、と言いますが、
読んでいる私も熱が出て倒れそうでした。この感覚は読まないと分からないと思います。
生まれてくる赤ちゃんをからは、「生」を実感できない、
末期がんになって死んでいく愛人をみて、それを実感することができる。
「生」は「死」を意識してはじめて実感できるものだと分かりました。
この「命」1冊で、85万部売れたというからすごい。「不幸」もここまで徹底すればスバラシイ!