一絃の琴 宮尾登美子

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宮尾さんが17年をかけて完成させた渾身の小説。
読み終えたときはほとんど放心状態でした。
恥ずかしながら、読破するのに2ヶ月もかかってしまった。
しかし不景気で自殺者が増加している現在において、こんなすごい小説が
わずか460円で読めてしまう世の中は、
もしかしてそんなに悪い世の中じゃないのかもしれない。

「篤姫」ばかりが有名になってしまった宮尾さんですが、
彼女の代表作はまぎれもなく、「一絃の琴」だ。


女性が琴を習う小説です。しかし退屈な主婦が趣味で琴を習う話じゃない。
琴に全人生をかけた2人の女性の生き様が描かれている。

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これが一弦の琴である。一本の弦をひき渡しただけの楽器。
一弦琴では琴を弾きながら唄うのが基本になっている。
*「絃」という漢字が正式だが、「弦」のほうが一般的かもしれない。

鳥肌がたった場面は、一弦琴の師匠が、命が尽きる寸前に完成させた名曲「漁火」を、主人公の前で演じたとき、まるで本の中からメロディが流れてきたような錯覚に襲われたシーン。

それから蘭子がライバルの雅美と琴の勝負をする場面でも、活字を読んでいるだけなのに、なぜか音楽がどこからとも聞こえてくる。蘭子が必死の形相で、ライバルに負けまいと琴を弾いている姿が鮮明に目に浮かんでくる。

また、琴職人の紋之助がつくった伝説の琴を、ついにを主人公が手に入れたときは、感動のあまり、思わず立ち上がってスタンディングオベーションしてしまった。その琴をつかって、主人公が雅美の前で伝説と呼ばれた「漁火」を披露したとき、雅美はぼろぼろと涙を流す。思わず私ももらい泣きだ。
小説だからもちろん音は出てこない。
だけど活字の行間から音が聞こえてくる。すごく不思議だった。


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一弦琴はいずれは滅んでいくのかもしれない。いやもう滅んでいるかも?



苗は主人公にしては地味で性格もおとなしい。宮尾ワールドではありない主人公だと思っていたら、後半は主人公が交代する。もう1人の主人公蘭子は、出世欲が強くて、ぎらぎらしていて、性格も悪い。そして苗を死ぬまで許さなかった女性なのですが、なぜか嫌いになれない。
心にすごく深い傷を負った女性だからかもしれない。


「苗が死んだ年齢よりも長生きしたい。苗の年齢に達する前に死んだら私の負けだ」


というようなことを彼女が言ったとき、彼女の怨念の深さを感じました。
蘭子の死に方は壮絶すぎて非常に考えさせられました。一弦琴って当然のことながら、古い時代の楽器なので、たいしたことはありません。


ただし、小説ってやはりすごいですね。
すごくない楽器が、想像力という力によって、とんでもなくすごい音楽を生み出す。 

この小説を読んでいて、いくつかのシーンで、
音楽が本の中から湧き出てくる不思議さを実感しました。


ちなみにこの小説は実話に近い。
従って「漁火」も、演奏されたテープが残っており、
それがウエブサイトに公開されているという。

「漁火」ではありませんが、ユーチューブより、一般的な一弦琴の音色です。
実際に音を聞くと幻滅してしまう。

http://www.youtube.com/watch?v=xIZBcGalrYc


やはり想像力に優る音楽などありえない。

NHKでもドラマ化されている。
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この小説のポイントは、2人の女性の子供時代から老人時代までの人生が細かく描写されていることです。そして2人とも、一弦琴によって、深い傷を負い、「一弦琴なんてもう二度と手にしない!」と思っている。


それなのに数十年もたったあと、突然、自分が心から一弦琴を愛していることに気がつく。


「思い出」というのが1つのキーワードになっています。

あなたは自分の人生を豊かにする心から大好きなものを持っていますか?
という問いかけが含まれているかのような物語でした。
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