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「その日のまえに」 重松清

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短編構成の長編だとおもいます。最後にすべてがつながる瞬間は「ラッシュライフ」を思い出しました。本作はすべての章に共通するテーマが「死」です。 昔の同級生が病気で死んでいく章や、お母さんがガンになって戸惑う息子の章などで構成されています。

なかでも「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」という3つの章が
たいへん素晴らしい作品。

大げさじゃなくて泣けます。 

勘のいい人はすでにタイトルをみただけで「その日」というのが何を意味しているのか気がつくはずです。・・・・・。 

そう・・・そのとおりです・・・

「その日」とは「死ぬ日」のことです。
この3つの章は末期がんの妻を看取る夫の視線で描かれています。 「その日のまえに」では、妻がガンを告知された直後の話。夫と妻は、その日が訪れる前に、2人で思い出の場所へと向かいます。「その日」では、ついに妻の最後の瞬間。夫と子供たちは静かにその様子を見守る。 そして「その日のあとに」では、妻がいなくなった後の父と子供の生活の様子が淡々と描かれている。

ここで描かれる「死」は、テロリストが爆弾を放り投げて人を殺すような「死」ではなくて極めて現実的で誰にでも必ず訪れる「死」です。わたし達にもいずれは大切に思っている人の死を迎える時期がくるはずです。いわゆる「その日」・・というものがやってくるのですね。人の死は止めることはできません。ただひたすら見守るしかない。多分私は逃げてしまうかもしれない。「死」から逃げる人間・・で思い出したことがあります。

「秘密の花園」(バーネット原作)に出てくる父親は妻が死んで心に傷を負いました。彼には病弱な息子がいたのですが妻が病気で死んだ直後から息子を避けるようになった。父親は息子が眠っているときだけ我が子の顔を覗いてすぐ出て行く・・。この親の不思議な心理描写をみてとても考えさせられました。これから死ぬであろう人の手をずっと握ってやる(隠喩的な意味で)のは大変苦しいことだと思います。が、それが大切なんだと・・・この小説を読み、真摯に「死」と向き合っている人たちを見てそう感じたのでした。