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「魂萌え」 桐野夏生

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今の社会には敏子さんのような魂萌えの女たちが多数存在する。
だからこの本には需要がある。

主役は59歳の専業主婦・敏子。社会を知らない中年女性が、夫の急死によって、いきなり社会に放り出され今まですべて夫に頼って物事を決めてもらっていた主婦がこれからは全部自分で判断して決定しなくてはいけなくなった。彼女の優柔不断ぶりたるや、目に余るもので、特に相続問題で実の息子に、食い物にされようとしている様子は見ていてかなりイライラした。息子と母親という親子関係も、歳をとれば、このようになってしまうものなのか?

息子にとって「家族」とは、母親のことではなくて、自分の妻や子供たちのことでした。

姨捨山(おばすてやま)という言葉も頭に浮かんでくる。敏子さんは完全に孤立して家出してしまう。こんな自分勝手な息子に、財産をむしり取られようとしている敏子さんが、途中から急に強気になって、息子を唖然とさせるシーンは痛快で拍手を送りたくなってくる。立ち上がった女性は本当に強い。
「女はみんな生きている」というフランス映画を思い出しました。→チェック。 
やはり人間には適応力というのが備わっているのではないでしょうか。 

女性の場合、「母親」と「妻」という2つの立場を持っている。 
もしその立場が一夜にして無くなったらどうなるか?
この物語の核心はまさにそこにある。
桐野夏生は、59歳の専業主婦から
一瞬にして「妻」と「母親」という肩書きを奪い去った。


突然自分を見失った女性は、暗中模索の中から苦しみながらも再生していきます。
これはありえない話じゃないと思う。女性は基本的に夫(男)よりも長く生きる・・従って、いつかは必ず1人で生きていく日がやってきます。敏子さんの夫の秘めたる不倫や、子供たちの不孝は、彼女を魂萌えへ導くための試練という見方もできる。

妻ではなく、また母親ではなく、1個の女性として生きていけるかどうか?
そういう覚悟があなた達にありますか?という問いかけが含まれたように感じます。

高齢化社会が進むにつれ、これからますます増えていくであろう魂萌えの女たちにエールを送る会心の良作でした。