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闇の守り人

本誌評価は★★★★★ 5点
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ファンタジーでありながら、シリーズのなかで一番ミステリー色が濃い作品。
これははっきりいって泣きました。死人に口なしという諺があります。
その意味は、「死んだ者に無実の罪を着せても、何の釈明もできないこと」のたとえ。
まさにこの物語はそれに尽きる。一巻ですでに死亡しているジグロを中心に物語は進む。
死人に口なしとはジグロのことです。
また、バルサも故郷では死んだことにされていた。そんな死人が故郷に帰ってきたわけです。
バルサが帰ってきて喜ぶ人と困る人たち─。今から何かが始まると言う期待感がハンパじゃない。
読者のみが事実を知っている。悪党が善人の皮をかぶっている。
ゆえに焦燥感を持って一気読みしてしまうような仕組みになっている。
バルサが暴れまくり、国中が1人の中年女のためにパニックになるところが痛快無比で楽しい。
敵たちの「このおばちゃん、強ええ~」というリアクションが良い。
毒を使うあたりも必死さが伝わってくる。
バルサの戦い方のスタイルは当然のことながらジグロそっくりだ。
だからジグロに罪をかぶせた悪人たちは、ジグロの亡霊が蘇って復讐しているかのような
不気味さを覚えるのは当然でしょう。巧い、実に巧い物語の作り方だ。
作者の才能は素晴らしい。本当に天才的な描写が続きます。

バルサの叔母のユーカはウソで固められたジグロ悪党説を25年間も信じていた。
この25年間という長さが絶妙です。とっくに諦めている、もうなにも期待していないという長さです。
バルサから真実を聞かされてその話に夢中になりすぎて気が付いたら朝になっていた
というシーン、何度読んでも楽しい。愛する人が悪人だと絶望していた人が、
その日のうちに真実を聞かされる瞬間の興奮が伝わってくる。ムチャクチャ嬉しい。
ジグロというのは最強の強さを誇り、国の英雄でした。
それが悪の象徴にされてしまった理由は、バルサを助けたから。
簡単に言うと、バルサは「悪魔の子」だったわけです。
生きていてはいけない存在だったのです。
バルサ自身、「生」に投げやりだ。
彼女は太宰の人間失格よろしく「生まれてきてごめんなさい」という生き方をしている。
この瞬間、一気にバルサが愛おしくなってくる。
バルサが抱える闇がようやく2巻ではっきり見えてくるわけです。↓はドラマ版のバルサ。
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バルサを助けたことで、ジグロは後悔がなかったかと言えばそうでもないような
心の揺れ動きも描写されている。
「パルサさえ、いなければ….ジグロは、何度、その思いを押しころしてきたことだろう。」
→これはバルサの深読み。
そんなバルサの思いを知ってか、ジグロはこんなことを言っている。
「バルサ、俺は夢を見ながら、考えてた。俺がたどってきた道の、どこかで、別の道を選んでいたら、もっとよい人生が、あったのだろうか、と。」
→つまりバルサを助けなかったら英雄のままでいられたのではないかと言う意味。
「答えはな、・・・もう一度、少年の日にもどって、人生をやりなおしていい、といわれても、きっと、俺は、同じ道をたどるだろうってことだった。」
この文章を読んだあと、もう鼻水しか出ない。もう号泣です。
ジグロさんはマジで良い奴でした。
何のために守るのか?己の利益のためじゃない。
ジグロがバルサを守ったように、バルサも守り人として守る道を歩んでいく。
まさに闇の守り人は、守り人シリーズの原点でありながら頂点。
シリーズ最高傑作と言っても過言ではないでしょう。